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第十話:師弟の絆【会長 草原克豪】

第十話:師弟の絆【会長 草原克豪】

第十話:師弟の絆【会長 草原克豪】

武道において重要なのは良き師との出会いです。多くの人にとって、最初に空手の稽古を始めるのは、近くの道場においてでしょう。そこで指導してくれるのは、豊富な経験を積んだ空手の高段者です。そうした指導者から教わりながら、空手の技だけでなく、武道の考え方や心構えを身につけていくのです。

道場では、子供から大人まで、さまざまな人が稽古をしています。普段は学校で同年齢の仲間としか付き合う機会のない小中高校生たちにとって、老若男女の集まる空手道場は、それだけで学校とは違った意味での恵まれた教育環境だと言って良いでしょう。そこで育まれた師弟の絆、仲間との絆はその人の人生にとって大事な財産になるに違いありません。

最近の子供たちは、豊かで便利で安全な生活環境の中で生まれ育っています。そのせいか、親や他人から叱られた経験もなく、ひ弱で、忍耐心がなく、厳しく指導するとすぐに心が折れてしまうといった話もよく耳にします。たしかにそのような傾向が見られるかもしれません。しかし、それを嘆いてばかりいてもはじまりません。子供たちがひ弱になっているならば、何とかして彼らを強い人間に育てなければならないのです。そのために空手があるのです。

もちろん、強い人間といっても、腕力が強いとか、喧嘩に負けないという意味ではありません。そうではなく、心がしっかりしていることです。強い心を養って、高い目標に向かって挑戦できる自立した人間を育てることが、現代の武道に課せられた重要な使命であると言ってよいのです。

日本空手協会の使命は、空手の選手を育てることではありません。空手の稽古を通じて、若い人たちが立派な大人へと成長していくのを手助けすることです。そのためには、一人一人の生徒をよく観察して、その人の個性に合った指導をすることが重要になってきます。そこで何よりも重要なことは、生徒が空手を好きになることです。そのうえで、さらに空手を楽しむ人になってくれることを願っています。論語にも「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」とあります。道場は師弟の協働による人間成長の場なのです。

良き指導者とは、生徒の持っている個性を上手に引き出して、さらなる成長を促してくれる人だと思います。そのために大事なことは「教え過ぎない」ことです。先回りして答えを教えてしまうと、自分で考える習慣が身に付かず、いつまで立っても自立できないからです。それだけではありません。生徒にとって、自分で疑問をもって、自分の力でそれを解明できたときほど高い満足感を味わえることはありません。その楽しみを奪ってはいけないのです。教育で一番大事なことは「待つ」こと、機が熟すのを待つことです。

「啐啄同時」という言葉があります。雛がかえろうとする時、雛が内側からつつくのが「啐(そつ)」で、母鳥が外からつつくのが「啄(たく)」です。この啐と啄の呼吸がぴったり合わなければ雛は孵化しません。まさに以心伝心。そのタイミングが大事です。

公益社団法人日本空手協会は内閣府認定の公益法人として品格ある青少年育成につとめております。
当会主催の全国大会には、内閣総理大臣杯、及び文部科学大臣杯が授与されております。