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第四話:己に克つ【会長 草原克豪】

第四話:己に克つ【会長 草原克豪】

第四話:己に克つ【会長 草原克豪】

 昔の武士は、自分を守り相手を倒すことを目的として武術の技量を磨きました。しかし明治維新で武士階級はなくなり、近代的な武器を装備した軍隊が登場すると、状況は一変します。かつての剣術や柔術などの伝統的な武術はもはや時代遅れと考えられるようになったのです。
 しかし、その後、明治初期の極端な欧化政策の時代が終わるとともに、かつての武術は現代社会のニーズに応える日本の伝統文化として、その価値が見直されるようになります。そしてそれが剣道や柔道をはじめとする現代の武道へと発展していくことになったのです。
 沖縄の空手ももとは護身のための武術でした。しかし日清戦争後になるとその体育的価値が見直され、沖縄県の学校教育に取り入れられるようになります。そして1922年に本土に紹介され、船越先生の尽力で日本の武道として体系化されて、今日の姿へと発展することになりました。このように私たちが稽古している空手道は、沖縄にルーツをもちながら本土に紹介されて、柔道や剣道のように日本の武道として発展してきたものなのです。
 現代社会においては、その昔武士が活躍した時代とは違って、もはや素手で相手を殴り倒したりすることはありません。あってはならないことです。それなのになぜ、何の目的で、私たちは空手道の修行をするのでしょうか。それは自分自身を鍛えるためです。強い人間になるためです。強いといっても相手を打ち負かすような力の強さではありません。自分に負けない強さ、「己に克つ」強さのことです。
 もともと人間は弱い生き物です。できれば楽をしたいと思い、つい易きに流れたり、甘い誘惑に負けたりします。本来しなければならないことを先延ばしにしたり、途中で諦めたりしてしまうこともあります。しかも厄介なことに、こうした心の弱さは普段は内に隠れていても、いざというとき、ここでひと踏ん張りしなければならないという大事なときに限って、頭をもたげるのです。だから、私たちは、そのような弱さに負けないようにするために自分を鍛えるのです。それが克己心を養うということです。
 空手道はそのためにあります。その点で空手道は、一定のルールの下で勝ち負けを競い合って楽しむことを目的とするスポーツとは大きく異なります。このことは空手道に限らず、剣道、柔道、弓道、合気道などすべての武道に当てはまるといっていいでしょう。日本の武道は稽古を通じて心身を鍛錬し、究極的には自分自身の人格を高めることを目指しているのです。みなさんの道場に掲げられている五か条の「道場訓」はこうした考え方をわかりやすく述べたものです。

公益社団法人日本空手協会は内閣府認定の公益法人として品格ある青少年育成につとめております。
当会主催の全国大会には、内閣総理大臣杯、及び文部科学大臣杯が授与されております。