年頭挨拶【草原会長より】
令和5年を迎えて
日本空手協会会長
草原克豪
全国の会員の皆様、明けましておめでとうございます。
今これを読んでくださっているのは、日本空手協会の会員やその家族の方々をはじめ、空手道に強い関心をお持ちの方ばかりだと思います。皆様には日頃から日本空手協会の活動にご理解とご支援をいただいていることに心から感謝申し上げます。
ここ2−3年は新型コロナに悩まされてきましたが、ワクチンとウィズコロナで世の中もようやく活気を取り戻しつつあるようです。今年こそは日本空手協会にとって充実した活動を展開できる年となることを願ってやみません。
すでに良いニュースもあります。協会の会員数が増えているのです。12月現在で3万9千人を超えています。この少子化時時代にも関わらず、特に小学生や中学生の間で会員が増えているようです。その理由は、一つには中学校で武道が必修化されたことの影響があるのかもしれませんが、しかしそれ以上に、空手の稽古を通じて礼儀正しく、忍耐強く、努力を惜しまない態度を身につけることへの期待の表れではないかと思われるのです。
空手は言うまでもなく、日本の誇る武道の一つです。武道というと闘争心を掻き立てる勇ましいイメージを思い浮かべる人もいるかもしれません。でもそれは誤解です。確かに今から80年近く前、終戦直後の日本においては、一時期占領軍の命令で武道が禁止されたこともありました。軍国主義につながるとの理由からです。だがそれは大きな誤解でした。
武道という言葉の意味は、日本武道協議会が定めた「武道の定義」(2014年制定)によると、「武士道の伝統に由来する日本で体系化された武技の修錬による心技一如の運動文化で、心・技・体を一体として鍛え、人格を磨き、道徳心を高め、礼節を尊重する態度を養う、人間形成の道」であるとされています。つまり武道の目的は、一言で言えば「人間形成」なのです。
そうであれば、武道は若い人たちだけのものではなく、大人になっても修行を続けることが大事だということになります。中でも空手道は、老若男女の誰もが、いつでもどこでも、一人でも大勢でも、しかも道具がなくても、稽古ができるのです。だからこそ、「生涯空手」という言葉が示しているように、人生のあらゆる段階において自分に合った稽古を続けることができるのです。この特徴を活かして、それぞれが自分なりの稽古を根気強く続けていくことが重要です。稽古の場は必ずしも道場だけではありません。日常生活の中のあらゆる場面が空手の修行の場になると言ってもよいのです。おそらくすでに多くの方々が、そのことを理解されて、空手道の修行を続けたり、あるいは後進の育成や普及に努めたりしてくださっているのだと思います。
武道においては、身体を動かす技術だけでなく、心を鍛えることも重要です。日本空手協会の空手は自分自身を高めるための自己鍛錬であり、道場訓にもあるように、人格完成を目指すものです。敵を倒すことよりも、敵を作らないことが大事です。それが武士道の精神なのです。
武士の「士」とは学問や道徳を修めた人のことです。だから武士は、武だけでなく文をも兼ね備えた「文武両道の士」でなければなりません。この高い理想に向かって前進するためには、読書などを通じて自ら学び、人間としての教養を身につけることが重要になってきます。
長い人生においては、自分の意のままにならないこともたくさんあります。でも大事なことは、たとえどのような状況に置かれても、その中で今の自分に何ができるかを考え、工夫し、勇気を出して挑戦することです。どんな分野でもその頂点に立つ人は、それまでに様々な失敗や挫折を経験し、厳しい逆境を乗り越えて不屈の努力を重ねた人たちばかりです。そうした「努力の精神」を養うことが、空手道を含めた武道の目的なのです。
皆さんも年の初めに改めてこれらのことを確認し、そのうえで自分に合ったペースで稽古に励み、心と身体の状態を正常に保つよう努めていただきたいと思います。
令和5年が皆様にとって素晴らしい飛躍の年になることを心から願っています。
(2023.1.1)