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第七話:国際ルールと伝統ルール【会長 草原克豪】

第七話:国際ルールと伝統ルール【会長 草原克豪】

第七話:国際ルールと伝統ルール【会長 草原克豪】

今日、組手試合のルールには、大きく分けて日本空手協会で採用している伝統的な一本勝負に基づくルールと、世界空手連盟(WKF)やその構成団体である全空連(JKF)が採用するポイント制のルールとがあります。なぜこのように複数のルールが存在することになったのでしょうか。

日本空手協会の空手道は武道空手です。もちろん実際に相手を倒すことはしませんが、それでも武術の特徴である一撃必殺の技を重視しています。そのため、当たれば致命的な打撃を与えるような突きや蹴りの技を磨くのです。こうした「極め」のある技が決まると、実戦ではそこで勝負あり、一巻の終わりです。やり直しは効きません。そこから「一本勝負」という考え方も出てくるのです。

ところが、「極め」を重視した「一本勝負」の試合においては、一瞬の油断も許されないため、お互いに慎重になり、なかなか手を出せないことも珍しくありません。その息詰まるような緊迫感の中に真剣勝負の醍醐味があるとも言えるのですが、中にはそれでは見ていて退屈で、面白くないと感じる人も出てきます。そこで世界空手連盟が採用し、後にその構成団体である全空連も採用するようになったのがポイント制です。

ポイント制では1ポイントや2ポイント先取されても挽回できますし、時間切れ寸前に上段回し蹴りといった思い切った技で大逆転することも可能です。それだけに見る者を退屈させません。そのうえいつまでも攻めないていると注意を受けるので、常に積極的に技を仕掛けなければなりません。その意味で、ポイント制はスピード感と見栄えを重視したルールであり、観客やテレビ視聴者に見せることを強く意識したルールなのです。

こうしたルールの違いは、空手における試合とは何かという本質的な問題とも関わっています。日本空手協会においては、試合はそれ自体が目的ではなく、さらなる成長を目指すための一過程であると考えられています。試合を通じて、相手の心を読んだり、間合い、迅速な対応、平常心、決断力など、普段の稽古だけでは身につかない能力を体得することを学ぶのです。

これに対して、世界空手連盟は、もともと試合を通じて技の優劣を競い合うことを目的として結成された西欧中心の国際競技団体です。そのため、組手試合においては武道としての側面は認めながらも、それ以上にスポーツ的要素を大事にして、観客に見せることを重視するようになるのです。

このように二つのルールの違いは、空手道の目的をどう捉えるかの違いを反映したものと言えます。すなわち、武道空手の立場から試合を空手道の修行における一過程と見るか、それとも勝敗を競い合うこと自体を目的としたスポーツ競技と見るかの違いです。

どちらのルールが正しいとか、間違っているとか言い切ることはできませんが、どのようなルールを採用するにしても、空手道を武道として捉えるのであれば、安全性とともに、武技に基づく実戦性という側面を忘れてはならないと思います。日本空手協会が伝統的な「極めのある一本勝負」にこだわるのは、空手道を武術や武士道に由来し、生涯を通じて自己を鍛錬する武道として捉えているからです。

公益社団法人日本空手協会は内閣府認定の公益法人として品格ある青少年育成につとめております。
当会主催の全国大会には、内閣総理大臣杯、及び文部科学大臣杯が授与されております。